前回は三世一身法でした。期限つきで私有を認めたものの期限があることで耕作の放棄が続き、当初の目論見通りには続かなったと。三世一身法の施行わずか20年後には今回の墾田永年私財法が発令されます。
公地公民制が崩壊
墾田永年私財法は奈良時代中期、聖武天皇が743年に発布しました。文字通り、新規に開墾した土地については期限なしで私有を認めます、という画期的な法令です。これにより大化の改新以来の公地公民制の建前が大きく崩れることになります。
背景として人口増加による耕作地の不足があります。三世一身法もその解消のためのものでしたが、根本的解決のためには私有制を取り入れるしかないと見たのでしょう。非常に現実的な政策です。
身分によって面積制限あり 庶民でも3000坪OK
これまで墾田の取扱いは三世一身法に基づき、満期になれば収公し、通例どおり(国有田として他の耕作者へ)授与していた。しかし、そのために(開墾した)農民は意欲を失って怠け、開墾した土地が再び荒れることとなった。今後は、私財とすることを認め、三世一身にかかわらず、全て永年にわたり収公しないこととする。
これがその法令です。けっこう詳しく規定してて、「公衆に妨げのある土地」は除外するとか、申請が許可されて3年以内に開墾しなかったら次の者にゆずるとか、今の法律に似た感じのところもあります。
一方で、その許される耕作面積には位階に応じて制限を設けていました。
親王の一品と一位には五百町、二品と二位には四百町、三品・四品と三位には三百町、四位には二百町、五位には百町、六位以下八位以上には五十町、初位以下(無位の)庶人に至るまでは十町(とせよ)
この時代の1町がどのくらいなのか、私には知識がないのですが、太閤検地では1町が300坪。それを準用すれば庶民でも3,000坪の開墾と私有が認められたことになります。位の一番高い人になると15万坪もの広大すぎる土地の私有が認められました。
空前の開墾ブーム到来!
開墾さえすればそれが一生というか代々にわたり自分の土地となるのですから、三世一身法とは違いみんな目の色変えて開墾作業にいそしみました。アメリカの西部開拓時代を連想させます。
施行から約20後の765年には、墾田ブームの過熱を抑えるために、時の権力者であった道鏡により墾田私有を禁止する旨の太政官符が発布されるほどになりました。
ただし、これは土地の私有で富と権力を増した藤原氏や大寺院の圧力がかかり、再度墾田を許可することになったのでした。
アメとムチ:固定資産税の祖先みたいのが登場
国は土地の私有を認めるというアメを与えたかわりに、ムチも用意していました。開墾によって私有した土地に税金をかける仕組みを新設したのです。現在の固定資産税に似た制度です。
大化の改新による班田収授法では土地は国からのレンタルでした。レンタル料としてなにがしかのものを耕作者は国に払いました。
三世一身法は私有ですから払う必要なし。
墾田永年私財法は永代にわたる私有を認めるかわりに、認可された土地に課税するという方法を思いついたのです。私有とはいえそもそもは国が認可したものである、だから税金よこせと。
建前と思ってたら実は重要だった公地公民制
この理屈、大化の改新からの歴史をたどると、正しいようでやや牽強付会なところがあります。
そもそも荒地しかないような時に、土地すべては国のものである、と一方的に宣言しました。とはいえ実際には国にその荒地を開拓する財源がありませんでしたから、それを民間に開放することで耕作地が生まれました。開拓したのは民間で国は何もやっていないのです。が、「そもそも土地はすべて国のものである」という大前提がありますから、「わかった、私有は認める。けど当然税金はかけるよ。もともと国のものなんで~」と。
公地公民制は建前に過ぎませんでしたが、この建前が生きて、国は耕作地から税金を徴収するシステムがスタートしたのでした。
墾田永年私財法(wiki)はこう上手にまとめています。
墾田永年私財法では開墾予定地の占定手続きや三年間という開発期限を明確にすることで、開墾田を国家が掌握し規制する体制が確立された。開墾された田(墾田)は輸租田とされ国家への納税義務があった。開墾田の私有を認めることにより耕作意欲を促しつつ、それを輸租田として国家の税収を確保する。開墾田を国税の中に取り込んでいくシステムの確立が図られたのである。
これですべて解決したように思えますが
墾田永年私財法によって、民間は土地の耕作意欲が高まり耕作地は劇的に増えました。一方、国にとってもその土地からの税収が確保できるようになりましたので、これでめでたしめでたしとなりそうです。
が、所詮人間のやることなので、今度はまた別の新たな問題がでてきました。大規模な開墾私有地を持つものが現れ、それは荘園と呼ばれます。
今回はここまでです。
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