隣地所有の擁壁がやばい
隣地所有の擁壁にひび割れができており、雨が降るとそこから雨水がこちらに浸入してきている、いずれ、そこから擁壁が壊れそうで怖い、お隣になんとかしてもらいたいが法律はどうなっているのか、というご質問を受けました。
これはよくあるご相談で、似たような事例として隣地の空家が倒壊しそうで怖い、とか、隣地からの樹木がこちらの建物にぶつかりそう、とかも同じ事例となります。
所有権に基づく妨害予防請求権
これはきっちり判例が出ておりまして、「所有権に基づく妨害予防請求権」と呼ばれています。
昭和12年の判例なので、非常に読みにくいですが要旨は次の2点です。
1、所有者は隣地所有者に対してその十分な所有を妨害してはいけない
2、所有者は隣地所有者に対して所有権の妨害の危険がある場合は、予防的にその危険を排除しなければならない
「妨害予防請求権」は民法等には明記されていませんが、この判例により現在でも一般的に認められています。
「凡そ所有権の円満なる状態が他より侵害せられたるときは所有権の効力としてその侵害の排除を請求し得べきと共に所有権の円満なる状態が他より侵害せられる虞あるに至るときは又所有権の効力として所有権の円満なる状態を保全するため現にこの危険を生ぜしめつつある者に対しその危険の防止を請求しうべきものと解せざるべからず。
土地の所有者は法令の範囲内において完全に土地を支配する権能を有する者なれどもその土地を占有保管するについては特別の法令に基づく事由なき限り隣地所有者に侵害又は侵害の危険を与えざるよう相当の注意をなすを必要とするものにして其の所有にかかる土地の現状に基き隣地所有者の権利を侵害し若くは侵害の危険を発生せしめたる場合に在りては該侵害又は危険が不可抗力に基因する場合若くは被害者自ら右侵害を認容すべき義務を負う場合の外該侵害又は危険が自己の行為に基きたると否とを問わず又自己に故意過失の有無を問わず此の侵害を除去し又は侵害の危険を防止すべき義務を負担するものと解するを相当とす。
土地の所有者はその所有権を行使するに付きても隣地所有者の権利を侵害し又はこれに侵害の危険を与えざるよう相当の注意を為すを要しこれが侵害の危険を与えたる場合においてはこれが予防設備を為すの義務あり。」
「大審院昭和12年11月19日」
したがって、現在は隣地の擁壁が壊れていないものの、その危険性が一般的に認められる程度のものであれば、隣地の擁壁所有者に対して、妨害予防請求権に基づき、擁壁の修復を請求することができます。
なお、予防措置を請求する段階が過ぎて、実際に擁壁が崩れかかってきた場合は、それを取り除いてもらう権利(妨害排除請求権)もあります。
こちらの擁壁がやばい
逆の立場からいうと、隣地所有者から、こちら所有の擁壁が崩れそうで危ない、なんとかしてくれ、と要求があればこちらとしては応じないといけません。そして実際に壊れてしまったら、それを撤去する義務が発生することになります。
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